人や社会をより良い方向へ導く学問を体験
——立教大学×一宮高等学校

立教大学特別授業

2024/09/17

研究活動と教授陣

OVERVIEW

7月1日、愛知県立一宮高等学校で立教大学の特別授業を実施し、1年生約320人が参加した。授業は二次元コードによるアンケートを活用し、結果をリアルタイムで展開。生徒とのコミュニケーションを交えながら、経済学という学問に触れた。

行動経済学について語る菊池教授

立教大学 経済学部教授
菊池 航

研究分野:経済学
研究テーマ:産業の競争力

人を望ましい方向に動かすことはできるか—行動経済学への招待—

思考・行動に着目した新しい経済学

私たちが何か物事を判断するときは、自分の知っていることや耳にしたことのある情報をもとに判断します。これを「利用可能性ヒューリスティック」と言い、自分はよく考えて物事を決めていると思っていても、利用しやすい情報に基づいて判断をしてしまっているという行動経済学のひとつの概念です。この特性を利用して、企業や政府はさまざまな戦略や政策を行っています。

例えばYouTubeで動画を見ているときに、商品の名前を連呼する広告動画を見たことはありませんか?買い物へ行って商品棚を見たときに、「この商品見たことあるな」と思うと、人は安心感をもちその商品が欲しくなる傾向にあるとされています。

人間の思い込みの例として、ひとつの文章を紹介します。
この文章を読んだときに、「父親は亡くなったはずが外科医として登場している」と混乱する人もいると思いますが、これは男の子の母親が外科医だということです。外科医は男性の職業であるというバイアスがかかると、文章を誤って理解してしまいます。

このような人々の考え方や思考のタイプに着目し、「どんな政策・戦略ならば世の中が良くなるか」を考える学問が行動経済学です。この分野はここ30年で急速に発展してきました。従来の経済学では、感情や思い込み、錯覚といった人間の心理は十分に考慮されませんでした。しかし、人間の非合理的な行動が影響を及ぼすことが理解され、現在は行動経済学の考え方は定着してきました。

経営戦略や政策に用いる心理的効果

1年生約320人が参加した特別授業の様子

行動経済学は意思決定の理論です。その対象は経済現象に限らず、マーケティングや教育、医療などさまざまな領域におよんでいます。例えば、定価は3000円の商品がセール価格で「今だけ1499円」と表示されていた場合、消費者の立場からするとお得に感じるでしょう。消費者は最初に提示された高い金額を基準にして、購入を決定しがちです。これを「アンカリング効果」と言います。マーケティングで用いられる行動経済学の考え方のひとつです。こうして企業は、売上を伸ばすことに成功します。

限られた時間で素早く判断をするために、ある程度の情報で意思決定をする「ヒューリスティック」という心理も、マーケティングで活用されることがあります。旅行予約サイトで宿を調べるときに、「いま5人が見ています」「本日3人が予約をしました」といった表示がされることがあります。ほかの人も予約を考えているというプレッシャーを感じ、消費者は限られた時間のなかで急いで決めようとします。旅行会社はリアルタイムで人数を表示することで、消費者の心理に訴えかけて意思決定に介入しているのです。

身近なできごとを例にあげ、わかりやすく授業を展開

そのほか、保健政策や環境政策として人々の行動を望ましい方向へ誘導する役割もあります。人々の不健康な生活習慣を改善するために、飲食店や企業の社員食堂などでは栄養が偏らないよう食事改善を促す取り組みがされています。例えば、自由に料理を選んで1グラムごとに値段が付くグラムビュッフェでは、野菜の価格を安くすることで野菜中心の食事を勧めています。さらに野菜を使った料理には魅力的なポップを付けることで、野菜を食べるように誘導するなど、あらゆる方法で人々の行動を促しているのです。また、環境にやさしい生活を意識してもらうために、「ゴミ分別促進策」「省エネ促進策」として分別費用や電力消費量を明示し、訴えかける取り組みなどが行われています。

社会をより良くするには人々に当事者意識をもってもらう必要があり、そのためにもシームレスに情報を伝えなければなりません。「10%の人がルールを守りませんでした」と伝えるか「90%の人がルールを守りました」と伝えるかでも、人々の行動は変わる可能性があります。同じ事実でも表現を工夫することで意思決定に影響を与える「フレーミング」という考え方も効果的に活用されています。

幅広く活用できる意思決定の理論

経済学は誰もが幸せに、豊かに暮らせるように社会をより良い方向へ導くための学問です。

私たちは日々の生活のさまざまなシーンで意思決定を迫られており、いつでも望ましい判断ができるわけではありません。行動経済学を学び、経済、経営、教育、医療などさまざまな分野で活躍してください。

行動経済学は、人々の意思決定に介入する技術ですが、どのような目的を持って介入するかがとても大切です。大学では、専門分野を超えた幅広い知識と教養を身につけてほしいと思います。

専門性に立つ教養人の育成を目指す本学でみなさんにお会いできると嬉しいです。

一宮高校生に授業の感想を聞きました

1年生男子
行動経済学は文系と理系どちらの知識も必要だということを知り、とくに人間の心理を考える必要があることを学びました。文理選択はますます悩みますが、進路選択前に授業が受けられて良かったです。
1年生女子
行動経済学に興味が湧き、授業後に自分でも調べたいと思いました。将来は文学部へ進もうと思っていましたが、今回の授業で面白さを感じたので進路先の学部として候補にしたいです。
1年生男子
将来はゲームディレクターを目指しているため経済学は関係ないと思っていましたが、人の心理を考えてゲームを面白くさせる仕事なので、自分の夢につながる部分もあると思いました。
1年生女子
50分の授業があっという間に感じるほど興味が湧く内容でした。私は人間の心理や行動について学び、政治に生かしていきたいと思っているので、行動経済学はまさに学びたい内容です。

※本記事は『中日新聞』(2024年9月7日掲載)をもとに再構成したものです。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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