後輩たちを全日本の海へ 
鬼の主将の心裏にあった後輩への大きな愛

ヨット部

2019/12/02

アスリート&スポーツ

OVERVIEW

2018年秋の関東学生ヨット選手権大会決勝。藤田航輝(当時主将・19年3月社卒)が率いる最後の大会だった。

8位以上の入賞で全日本学生選手権大会(全日本)出場権を獲得できる、部にとって集大成とも言える大会。「全日本の海へ行こう!」強風の中、〝熱血な、優しい主将〟が舵を取った。だが、470級11位。スナイプ級10位。願いは叶わなかった。〝全日本出場〟という目標は夢物語へと変わっていく。「何とかしなければ」主将・関陸杜(営4)は鬼となった。

※ヨットレースは、ヨットの種類で分類される。大きな違いは帆の数で、大学の大会は470級(帆の枚数が3枚)と、スナイプ級(同2枚)がある。

周りの人に恩返しを

前方に座るのは主将の関、後方は前主将の藤田(2018年4月)

立教大学の校旗を掲げた一隻のクルーザー。「コラァ!しっかりしろー!」甲板からOBがげきを飛ばす。ヨット部は卒業生とのつながりが強い。どこであっても大会には駆け付け、新艇や備品を惜しみなく提供する——。溢れんばかりのヨット部への愛はどのような時でも現役生を応援している。

だが、現実は厳しい。近年のヨット部は低迷気味だ。団体での全日本出場は、15年のスナイプ級を最後に途絶えている。全日本で戦う立教を知る部員は卒業してしまった。新たな気持ちと虚しさを抱えて挑む新体制。主将・関は覚悟を決めた。「俺たちが全日本で戦う立教を築く。そして、恩返しをする」。

関の言動に妥協はない。目標はこれまでを上回る6位入賞。高い目標を掲げ、全日本で当たり前に戦えるチームを目指すと決めた。「こんなこともできなくて恥ずかしくないのか?もう海に出るな!」。後輩の不注意によるミスや不甲斐ない成績には、遠慮のない言葉を発した。集団生活が多い部であるため、一人の気の緩みや腑抜けた行動が全体の規律や士気を乱す。ささいなことでも見逃さなかった。

大会で奮闘する後輩ペア

応援に駆け付けるOBの方々。いつだって現役生を温かく見守る

嫌われるということ

大会に出場しない選手は小船から声援を送る

「関さん怖い……」後輩から向けられる視線。だが、本人自身が一番悩んでいた。「こんなことを言われたら、嫌だよな……」と気持ちが揺らぐこともある。もちろん〝慕われる優しい先輩〟でありたい。だが、主将に選ばれた理由は同期の中でも〝厳しい意見でも相手に言える〟面が評価を得たからだった。部員のほとんどが初心者から始めるヨット部の競技の特性上、経験の浅い下級生は関の指摘を理解することは難しい。それでも甘やかさず、「それぞれが役割を徹底しろ。全日本へ行くには細かい積み重ねが大事だ」。時として容赦ない言葉を重ねた。これが自分の役割だと信じて。

厳しく接するが、後輩が大好きだ。「あいつらは俺の想像以上についてきてくれる。本当に恵まれている」。感謝の言葉は絶えない。後輩への愛が溢れ、期待も大きい。

〝愛を持って叱る主将〟がヨット部の舵を取る。「今年の立教は強い」そう言われる日を信じて部員たちは帆を張った。先輩たちは〝全日本で笑っている後輩〟を見るために。後輩たちは〝笑顔で引退できる先輩〟を見るために。それぞれが役割を果たして〝全日本〟という同じ目標を目指す。大海原には新しい風が吹くだろう。
「立教スポーツ」編集部
立教大学体育会の「いま」を特集するこのコーナーでは、普段「立教スポーツ」紙面ではあまり取り上げる機会のない各部の裏側や、選手個人に対するインタビューなどを記者が紹介していきます。「立教スポーツ」編集部のWebサイトでは、各部の戦評や選手・チームへの取材記事など、さまざまな情報を掲載しています。ぜひご覧ください。

「立教スポーツ」編集部 経済学部経済政策学科3年次 山口 史泰

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